作家紹介

アーチスト写真

生命の輝きを一刀に込める

木や石に潜む、光を削りだす

彫刻家

岸野承

KISHINO Sho

モノ作りの日常風景

 京都府木津川市、比叡山から約60キロ南下した奈良市の真上。田園の広がる集落の一画に、築50年という岸野の自宅がある。古い表門をくぐると左手に作業場の厩があった。中は8畳ほどの広さで、半分を古材で作ったテーブルが占め、あちこちに作品や創作の手掛かりになるようなものが所狭しと置かれている。入ってすぐの三和土に敷かれた筵の上には、鑿や彫刻刀などの道具がきちんと並べられていた。
「だいたい朝の8時にはここに入って仕事をします。午前10時と午後3時の休憩と、1時間のお昼休憩以外は夕方の6時くらいまで、ずっと座りっぱなしです。ほとんど歩かないんでね、40歳くらいのときに腰と膝が悪くなって、それから日課の座禅と運動のあとに1時間くらいの散歩を欠かさずするようになりました」
 聞けば、こことは別にもうひとつ作業場があるらしい。周りに民家のない段々畑の一番上に、友人の大工とふたりで木を刻み、柱の棟上げをして、ここと同じ作りの掘っ建て小屋を岸野一人で作ったそうだ。作品によって、2つの作業場を行ったり来たりしているという。
 作業場を後にし、坐禅をするという座敷に案内してもらった。飛び石を踏んで母屋へ向かうと、玄関の手前には石の羅漢が、草にまぎれて道祖神のように立っていた。土間に上がって寄り付きをわたり、奥の座敷へと通される。その瞬間、鮮やかな新緑に目が奪われた。床脇にカマツカが一枝、山にいたときと同じ姿で花入からすらりと枝を伸ばしている。
「散歩中に採ってきて、そのままわたしが活けたんです」
 早朝に手折ってきたというだけあって、カマツカの緑は瑞々しく、手折られたことにも気づいていないのか、素のままの美しさを見せている。
 左隣の床の間には、たつの市寶林禅寺西村古珠和尚筆の「無理会」の掛け軸が、右上に視線をやると、そこには西田幾多郎直筆の扁額があった。真下の襖絵は水墨画家である父君の岸野忠孝氏の手によるものだという。カマツカを挿した花入は陶芸家である弟の岸野寛氏の作品、その台座は岸野本人が作ったもの。ぐるりと見まわすと、そこかしこに名物品が何気なく配されているのに、そのどれもが主張することなく清楚に座敷におさまっている。
「額の絵は長谷川利行のもので、スケッチブックの1ページを切り取って額に入れてるんです。好きでずっとここに飾ってるんですよ。自分の中で、なんかこの世界を忘れたらいかんな、と思って」
 さり気ないしつらいは、岸野の品の良さの表れなのだろう。

(写真上・筵と道具、下・彫刻の道具)

人の心に寄り添う作品を生む彫刻家、岸野承さん。古材や石のかたちを生かしながら、羅漢像や仏像、鳥や母子像などを削り出すためには、我を消して相手に合わせていく必要があるといいます。慈愛に満ちた作品が生まれる背景には、どんなストーリーがあるのでしょうか。

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