悠久の時をガラスに封じ込める
先人たちの思いを未来へつなぐ
ガラス作家
有永浩太
ARINAGA Kota
古代から続くガラスを未来へつなぐ
「僕がこれから何十年と作り続けていくことを考えれば、窯屋さんも必要だし、坩堝屋さんもレンガ屋さんも必要で、残ってもらわないと困るんです。それが国内に数件しかないというのは残念です」
新しい溶解窯を考えるきっかけになったのは、「吹きガラスの工房を維持していくのは大変だ」という、上の世代の人たちの痛切な嘆きだった。
「独立するなら後進を育てることも考えなさい」と恩師は言った。後進を育てるためにも、なんとか工房を維持していく方法はないものか、もっと違う方法があるんじゃないか、その思いがずっと頭から離れなかった。
「一人でも多くの作家さんが独立して、新しい溶解窯を使ってくれれば、その窯や坩堝や炉材を作っている人たちも生き残れます。そうすれば僕自身はもちろん、これからガラス作りをしようとする若い世代の人たちも助かるし、ガラス業界全体にとってもいいことだと思うんです」
何千年も続いてきたガラス作りを、こんなことで途絶えさせるわけにはいかない。古のガラス職人たちから紡がれてきた糸をつなげなければ。あの古墳で出会ったガラス玉が、ここまで導いてくれたのだ。
そして有永の手から次の世代へ、ガラスの糸が紡がれてゆく。
有永がそうだったように、有永のガラスは未来の誰かの心とつながり、込められた思いも手にするだろう。
そのときはきっと、透明なガラスの中で折り重なるガーゼが、悠久の時を物語ってくれるにちがいない。
(写真『netz 黒』)
* 取材・原稿/神谷真理子 写真提供・協力/銀座一穂堂 tokyo@ippodogallery.com
ヴェネチアン・グラスの代表ともいえるレース・グラスの伝統技法をアレンジし、オリジナルの技法で創作するガラス作家の有永浩太さん。布をテーマに展開する作品に『gaze』と名付けたのは、ガラスとの不思議な繋がりがあったからだといいます。透明なガラスの中にはどんなドラマが織り込まているのでしょうか。