作家紹介

アーチスト写真

令和の花鳥画は豊穣でシンプル、クールであったかい

日本画のど真ん中で勝負する、現代の絵師

日本画家

中野大輔

NAKANO Daisuke

日本画の特徴を逆手に取る

 

「もともと西洋画は物を陰影で描写します。だから手につかめそうなリンゴが描けるんです」

 セザンヌのリンゴは、無造作に描かれているのに、ある重量をもってテーブルの上に載っているという存在感がある。

 対して日本画はどうか。

「日本画の材料である岩絵の具は粒子です。西洋画で使う油絵の具のように、上に載せて下の絵の具をすっぽり隠蔽するようなことはできません。下に塗られている色が微妙に影響するんです。僕は日本画のそういう特徴を逆手に取って表現したい。同じ緑色の葉っぱを描くとしても、下にどんな色を塗っているかで微妙にトーンが変わります。一枚一枚に立体感がなくても、全体として量の存在を感じさせることができます」

 たしかに、岩絵の具を重ね塗りすると、発色や見え方が微妙に異なる。作品を撮影して印刷するとその微細な違いはわかりにくくなるが、本画に近寄ってつぶさに見れば、そこに作者の意図が働いていることがわかる。

「下地の色は、見えている色の反対色を使うことがあります。動物を描いているときも、首筋や目の周りなど血が通っている部分にあらかじめ赤を塗っておいたり……。視覚ではとらえられなくても、ほんのり伝わるんです」

 表面に表れるのはほんの微かな違いであっても、葉っぱの種類によって、赤から黄色の異なる色を下地に塗る。それらが固まりになったとき、色同士がたがいに影響し合い、みずみずしさや生き生きとした鮮度を生む。中野が描く作品は、実際に見える画面よりも多くの画面が、重層的にその下に隠されているのである。

 それにしても、日本画の宿命とはいえ、量感を得るにはなんと途方もない労力が要ることだろう。セザンヌやモネやゴッホのように、サッサッとあるスピード感をもって絵の具を重ねていく手法に比べ、見えるか見えないかわからないていどの微妙な色の違いを出すために、下にほかの色を塗るというのだ。

 逆説的に言えば、西洋画は下の色を覆い隠してしまうがゆえに、自然界にある微妙な色のグラデーションを表現する手段として、スーラたちが点描画を生み出したのかもしれない。(右上作品『花様今生 白銀抄』)

 

品格を生むもの

 

 中野は、品格を大切にしている。もともと日本の伝統的な芸事は、茶の湯から能、相撲に至るまで品格を大切にしてきた。横山大観も「気韻生動」という言葉を用い、作品に品格がなければならないと説いた。そのために、人間としての品格を高めるべきだと。

「僕にとっての品格ですか? ひとことで言い表すのはとても難しいですが、あえて言えば、構想から完成に至るまでに、どれだけ自分の心のなかの淀みを取れるかではないでしょうか。絵を描くということ自体、作為がないとできないことですが、作為が過ぎてもダメです。もう少し具体的に言うなら、嫌らしくない丁寧さですね。僕は学びのスタートが図案でしたから、職人の仕事が好きです。日本的な丁寧さは、いま世界で注目を浴びていると思います。丁寧な仕事に対する思いは、世界共通です。茶会でも一席のためだけにそうとうな手間をかけます。すごく無駄なようにも思えますが、ひとつひとつの所作に無駄がなく、自然の摂理にのっとっているから全体として見るととても合理的です。その源は丁寧さにあると思います。ただし、丁寧さが前面に出すぎると、押し付けがましくなります。丁寧に作られた会席料理でも、ちょっと嫌な感じがあったなと感じる場合と、なんて素晴らしかったのかと感じる場合があります。それは、作り手のちょっとした違いだと思います」

 大観が言ったように、作家の品格がおのずと作品に滲み出るのだろう。であれば、日常を調え、自らを磨く以外に作品の品格を高める方法はない。

 彼は運送屋で仕分けのバイトをしていた頃からの習慣で、ずっと早起きを続けている。毎朝6時に起き、7時半くらいから描き始め、夕方まで続ける。もちろん、サラリーマンではないから休日はない。

 しかし、それを自己鍛錬とは思っていない。創作が楽しくてしかたがないからやっているのだ。創作が苦しいとしたら、それはその人の天職ではないからだ。

 もうひとつ彼が重視するのは、作品に違和感があるかないか。

「これもひとくちで言うのは難しいですね。視覚的違和感とでも言えばいいでしょうか。線がちょっと太いだけで違和感を覚えることがあります。自然は雑多に見えて、細部を見たらすごいメカニズムでできています。そこからはずれた絵は、必ず違和感を覚えます。全体のリズム感を整えるために、あるていどのデフォルメはしますが、自然の秩序をはずれないよう一線をわきまえないといけません」(左作品『雄松天昇図』)

いま、もっとも注目される日本画家のひとり、中野大輔さん。伝統的な花鳥画を題材にしながら、現代の息吹を感じさせる本格派です。

中野さん独自の技法や独自の創作観など、〝令和の絵師〟の本質に迫ります。

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