作家紹介
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紅型で表す琉球の輝き

伝統を超えた色と型と光の饗宴

紅型作家

新垣 優香

ARAKAKI Yuka

幸せを運んできた「くがに」

 読谷村の海を臨むアトリエで、新垣は紅型の制作に余念がない。次々舞い込むオーダーにも、ようやく慣れてきたころだ。窓のむこうに水平線が見える。潮風が波の音を運んでくる。やわらかい陽射しに紅型のグリッターが乱反射する。この時間が心地いい。なんて幸せなんだろう。この気持ちを作品で表現したい。デザインのアイデアは、この島にごまんとある。高校生の頃から手作りして使い続けてきた膨大な型紙の中には、大賞を受賞した、あのときの型紙も……。

 

 大賞受賞後の新垣は、追風に帆を上げるがごとく、活躍の場を広げていった。なかでも、父が営む土産屋「ちんすこうくがに」のパッケージデザインを頼まれたことは、大きな飛躍につながった。

「沖縄では〝黄金〟のことを〝くがに〟と言い、いつの世までも光り輝くという意味があります。父から店名にちなんだ土産のパッケージデザインを頼まれた時、グリッターを思いついたんです。高校の頃、振袖のデザインで使いたいと思ったことがあって、それで」

 さっそくグリッターを取り入れ縁取りに使ってみると、想像どおり、作品はきらきらと光を放った。

 ――これはいける。

 紅型の新しい技法になる手応えを感じた。以来、グリッターは新垣の作品にとってなくてはならない素材のひとつになり、新垣作品の象徴にもなっている。

 パッケージデザインを考案してからというもの、これまで抵抗感のあった紅型の商品化にも新垣は応じるようなった。直接、生地に絵柄をプリントするという大胆なこともやってのける。それも、紅型を広く知ってもらうためだ。手染めのような高額なものだけでは、せっかくの紅型も埋もれてしまう。

「プリントのいいところは洗えるところです。染めだけの頒布は洗えませんが、どちらにも良さがあります。手軽に手にとってもらえることで多くの人に作品を知ってもらえるようになりました。それがきっかけで作品を買ってくれる人もいたり、オーダーもいただいたり。『いつか作品を買いたい』と言ってくれる人もいるんですよ。一人ではぜったい思いつかなかったアイデアも多く、とても勉強になりますし、人とのつながりの大切さを感じます」

 最初は気が進まなかったSNS上での作品紹介が吉と出たのである。企業や顧客からのオーダーが増え、皿やコップなどさまざまなグッズの商品化やスカーフの絵柄のデザイン、洋服、アクセサリーなどに加え、ホテルや空港のエントランスに展示する大型パネルの依頼まで入るようになった。また、ある新聞からの提案で、クラウドファウンディングで資金集めをし、紅型の普及につとめようとオリジナルの皿を考案。予定額の3倍の資金が集まった。

 作れば作るほど周りから声がかかるという思わぬ展開に、いちばん驚いているのは新垣自身だった。

「あのまま工房にいたら、今のような独創的なアイデアは生まれなかったと思います。旅が好きでこれまでもいろいろ行きましたが、旅先で受けた刺激を大好きな沖縄の自然と融合させてデザインに生かすこともあります。そうやって自由に作品づくりができることが嬉しいし、楽しい。わたしの作品を見て、沖縄を感じてくださったり、喜びの感想を寄せてくれる人が増えたこともありがたくて、次の作品づくりの原動力にもなっています」

 紅型作家としてスタートを切ってから11年。その間に結婚もし、子供も生まれた。一人のときとは見る風景も感じ方も前とはちがう。作品にも、それは表れているはず。

 今後は海外に向けて、紅型の技術や日本のいいものを発信していくことも考えているという新垣。やわらかい物腰の向こうに、沖縄のまぶしい太陽を見るようだった。

 

 辛さや苦しさに耐えて掴む未来もあれば、自分に正直になってたどり着く場所もある。どちらが良いか悪いかというのではない。どちらが自分の肌に合っているか。冬に咲く花もあれば春に咲く花もあり、北国が似合う花もあれば、南国が似合う花もある。新垣は正真正銘、ニライカナイにもあるであろう南国の明るい陽射しのなかに咲く、香しい大輪の花だった。

 

※作品上から:「Rainbow Rose」「SAKU」「自画像 30 歳の私」「南国の花々」「森を生きる」「やんばるの森」「ヒカリへ」「KASANARI」

(取材・原稿/神谷真理子)

 

 

 

沖縄の伝統工芸である紅型に、独自の技法で新たな風を吹き込む新進気鋭の紅型作家、新垣優香さん。大胆なスタイルとデザインで描く紅型は、一目見ただけで彼女の作品だとわかる。師匠につかず、独立独歩で歩んできたからこそ生まれた紅型の新しい世界をご覧あれ。

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