作家紹介

アーチスト写真

草で風を描く

見える景色の隠れた姿を写しとる

洋画家

岩井 綾女

Iwai Ayame

風を描くアーティスト

「風をテーマにしたのは、人との違いをつくるためです」
 風を描く理由は何かと訪ねたら、笑顔でそう返ってきた。大きな理由があるのかと期待していたからか、拍子抜けした。
 素直で、まっすぐで、正直で、自分に嘘がつけない岩井。これまでもその性格ゆえに閉ざされた道はいくつもあっただろう。しかし、だからこそアーティストという特殊な道が拓かれたのだ。好きなこととそうでないこと。岩井は自分の性分を早くにわかっていた。草を描き続けたのも性分がそうさせた。

 

 岩井の絵に風を見出したのはアーティスト仲間である。作品展で埋もれてしまわないためには人との違いを明確にする必要があると教えられ、仲間に自分の作品の特徴を聞いてみたのだ。返ってきた言葉が「風」であった。
「あなたの絵は風を感じる」
 無意識に描いていた草の景色に風が舞っていたのだ。あの河川敷で見た風景。なぎ倒された枯草に残る風の足跡。まぶたの裏にくっきり残る風と草の饗宴を、岩井はそれと知らず描いていたのである。
 岩井綾女は「風を描く洋画家」となった。大好きな草で風を表現する。漠然と草のある風景を描いていたときとはちがい、風を描くと決めてから筆の勢いも心なしか増していった。まるで風に押されるように。
 

 2014年、岩井は大阪で開催された「イレブンガールズアートコレクション」に初出展した。以降、数々の展覧会に出展。2013年の「アールデビュタントURAWA2013」に出展以来、浦和伊勢丹で行われる展覧会の常連アーティストにもなっている。ほかの百貨店でも個展が開かれるようになった。絵を買ってくれるファンも増え、現在は年間いくつもの個展の依頼が舞い込むように。「好き」という想いに忠実に、愚直に絵を描き続けてきた賜物だろう。
「ただ絵を描いていたい。その想いだけで描き続けてきました。高校生の頃はいろいろ悩みましたし、今でもなぜ絵を描くのか、と自問することもあります。ですが、EGCの頃から描きたいものも自覚し、描き続けてきた草が美しいものだという自信もあります。あの経験は、わたしに画家としての足がかりをつけてくれて、作品を気に入ってくださる多くの人との出会いももたらしてくれました。今も個展会場に来ていただいた方に絵の説明をしているとき、『ああ、わたしは絵が好きなんだ』とあらためて実感します。ただ、作風から、そんなに多くは描けません。本来なら月5点くらいは描き上げないといけないんですけど、それがなかなか(笑)」
 キャンヴァスに向かい、一人黙々と筆を走らせねばならない画家にとって、いちばんの敵はモチベーションの低下。火鉢の種火を守るように、胸中の情熱の灯火が消えてしまわないよう守らねばならない。孤独と向き合い、日がな一日絵を描き続けるなど好きでなければ続かない。しかも、陽の目を見ることはおろか、生活もままならない現実がある。現実を目の当たりにすれば、どんな頑強な心の持ち主でもとたんに消沈しかねない。自らアーティストという道を選び、環境にも恵まれている岩井であっても、そのことは十分わかっている。だからこそ良い絵を描き、一人でも多くの人に想いを届ける必要があるのだ。作家として絵を描き続けるためにも、共感し、買い上げて連れ帰ってもらう必要が。 

 

 「目に見えない風というものを、目に見える草によって表現したい。風を感じるには動きが必要です。草を描くのは風を感じてほしいから。空気感です。絵から立ち上がる空気。それを表すのが風であり、草なんです」
 風とたわむれ、生き生きと躍動感あふれる草の表情から一転、岩井の絵から風が消えた。草たちが静まり返っている。無風である。
「それも風を表現しています。風のないところに風を感じるというのでしょうか。今は静けさや穏やかさ、静謐な空気を表現できればと思っています」
 禅寺の枯山水。白砂の上にあたかも水が流れているかのように波紋をつけ、大小さまざまな石を置いて心象風景を眺めるあの庭のように、見えないものを見、聞こえない音に耳をすましてくれ、と岩井の絵が語りかける。
 青々しい若葉そのものだった高校生の少女は、老いて枯れゆく草に自然の妙を感じ、やがて風を描く絵描きになった。生と死のあわいで力強く生きていた枯草が、少女をたくましい大人の女性に変えていったのである。生から死へ。動から静へ。移りゆく時の流れに逆らうことなく、岩井綾女はこれからも風と草を描き続ける。

 

※作品写真・上から「ナズナの夢」「さらさら響く」「ささめく」「呼ぶ声」「遠い思い出」「緑の星」

(取材・原稿/神谷真理子)

 

高校生の頃に河川敷で風になぎ倒された枯草に魅せられて以来、草を描き続ける洋画家の岩井綾女さん。アーティスト仲間から「あなたの絵は風を感じる」と言われたことを機に、風を意識して描くように。絵を描く意味を問い続け、たどりついた現在の心境とは?

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