作家紹介

アーチスト写真

草で風を描く

見える景色の隠れた姿を写しとる

洋画家

岩井 綾女

Iwai Ayame

好きが高じて画家の道へ

 2009年、岩井は遠く新潟の地で春を迎えた。4年間の大学生活を終え、引き続き絵を描くために上越教育大学大学院芸術系コースに場所を移したのだった。
「とにかく、絵を描き続けていたかったんです。教員になりたいわけでもなかったから就活もしていません。ためしに一度だけ企業説明会に行ったのですが、あの雰囲気に馴染めず、自分には会社勤めは向いていないと思ってやめました。いくら考えても絵を描く以外にやりたいことはない。それなら大学院に進もうと考えたのです」
 そのまま埼玉大学の院生になれればよかったのだが、残念ながら実力が足りなかったと岩井は笑った。条件に見合った北陸の大学で、寮生活を送りながら絵に埋没しているうちに2年という月日はあっという間に去っていった。
 

 ふたたび春。嫌でも社会に出る時が来た。とにもかくにも絵を描く時間が取れるかどうか。それが岩井の就職の条件だった。収入は二の次、三の次。実家暮らしと両親の理解が彼女の絵心を支えた。選んだ職は学童保育の指導員。学童保育なら……と、思ったのもつかの間。半年が限界だった。その後、小学校の臨時教員の誘いもあったが、これも身に合わず、わずか1ヶ月で退散。自分にはつくづく教師は向かないのだと思い知った。おかげで絵を描く時間をたっぷり手にしたのだが……。
 職にあぶれ、絵を描いて日を削っている岩井を見かねた友人が手を差し伸べてくれた。これまた不向きな臨時職員である。今度は高校だった。
「最初は断ったんですよ。これまでのこともありましたし。でも、友人も心配してくれているのだからと、しぶしぶですが話を受けてみました。すると、意外や意外、高校はなんとか続けられたんです。小学校とはちがって美術だけを担当すればいいというのが自分に合っていたみたいです」
 すべての科目に精通していなければならない小学校教師は親代わりのような存在。子供の成長に大きく関わることにもなる。責任は重い。大学の同級生たちのように教員になるべく学んできたわけではない岩井に、その荷は重すぎた。高校の美術教師なら教えるのは美術だけでいい。絵も描ける。願ったりの職に就いた、はずだった。

 

〝岩井さんら美術家目指す〟
 浦和伊勢丹で行われたアーティストオーディション「アールデビュタントURAWA2013」での展示が地方紙に取りあげられたのである。臨時教師をはじめて4ヶ月後のことだった。
「公募展に選出されたのが3月中旬、教職の臨時的任用適任教員が決定した数日後でした。まさか選出されるとは思っていなくて、連絡がきてビックリしました。ちょうど夏休みに入るころだったし、期間中は会場に在廊しました。初めて絵が売れた時は不思議な気分でしたね。好きで描いていた絵が売れるんだって。新聞にそんな風に書かれたことも驚きました。販売が目的の展覧会は初めてで、絵が売れるとは限りませんし、あまり重くは考えていませんでした」
 教師に副業は許されない。ましてや絵の売買などあってはならない。それが臨時教師の身の上で行われたとあっては学校も黙ってはいられない。校長から厳重注意があった。結局、臨時教師は一年で辞退した。
 岩井は最初からわかっていた。教師は適職ではないと。やりたいことが明確だったからこそ、やりたくないことも明確だった。自分の適性に合わないものに心は動かない。そのことを十分理解していたから、仮面をかぶってまで自分に嘘はつけなかったのだ。新聞の「岩井さんら美術家目指す」という表記に、岩井の琴線がゆれた。
 在廊中、岩井はある女性から若手アーティストが集う「イレブンガールズアートコレクション」の話を耳にする。その女性もイレブンガールズの一人だという。
 イレブンガールズアートコレクション(EGC)とは、2010年に結成された日本初の女性アーティストユニット。ふだんは個々に活動し、展覧会にのみ集結し協力する。画壇や会派から離れ、一般公開の場で評価を競いながらアーティストとしての技術を磨く「学び舎」である。ソロ活動のステップアップに焦点を置き、年に2、3度、同志の集いでもある展覧会で互いのアーティスト意識を高め合うのだ。個人の売り上げ成績が良ければ個展への昇格もあるという。
 岩井の胸が波立った。アーティストなら好きなだけ絵を描ける。同志もいる。自分も参加したい旨を伝え、岩井はイレブンガールズの一員となった。はからずも、コンクールの一件で臨時教師から「画家」への転身も可能になり、作家生活が始動したのである。2013年のことだった。

 

高校生の頃に河川敷で風になぎ倒された枯草に魅せられて以来、草を描き続ける洋画家の岩井綾女さん。アーティスト仲間から「あなたの絵は風を感じる」と言われたことを機に、風を意識して描くように。絵を描く意味を問い続け、たどりついた現在の心境とは?

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