作家紹介
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世界へ羽ばたく、自由で楽しげな書

命が宿る〝生きている書〟

書家

齋藤 翠恵

SAITO Suikei

苦しみの字ではなく、楽しげな字

「作品を一見したら、齋藤翠恵とわかるような作品を書きたい」

 今後、目指すところは? と問うと、そう返ってきた。

 翠恵には、「書はこうあるべき」「自分の書はこうだ」といった主張があまりない。子供たちが成長したら自分はどうすればいいのかと、我に返って始めた頃と同じように、肩の力が抜けている。それなのに、青野さんをして驚愕させるようなたしかな線を書く。

 華やかな出で立ちと作品との間に、妙なズレがある。

 ふと、思う。それこそが齋藤翠恵という書家の力ではないか。そう考えれば、海外で評価が高いのも頷ける。

 日本文化は洗練の極みともいえるが、一方で閉鎖性やしがらみは根強く残っている。

 翠恵の線は、閉鎖性や妬みの軛から解き放たれている。さらに言えば、苦しみの字ではなく、楽しげな字である。湿度のある過度の情念とは遠い位置にある。それこそが、インターナショナルな書になりえる資質と言えるのではないだろうか。

 2018年、翠恵は銀座一穂堂で2度目の個展を開いた。テーマは「川端康成」。美の虜になった、あの世界的な作家である。ノーベル賞受賞を記念して行われた講演は、「美しい日本の私」と題されている。海外の文化を味わった後、日本文化の奥深さに目覚めた人ならではの、射程の長い話である。翠恵は川端の作品を自分なりに繙き、そのエッセンスを線に託して見せてくれた。

 ある人は彼女を評してこう言った。

「苦労した姿を見せないで結果を出している人ほど魅力的な人はいない」

 夢中になって蝶を追いかけているうち、気がついたら山の頂にいた。齋藤翠恵はそんな人なのかもしれない。

 

※作品写真・上から「國」、揮毫風景、「空海」、ニューヨークでの個展にて揮毫、ポール・ヴァレリー美術館でのパフォーマンスを伝える記事、「寂」

(取材・原稿/高久 多美男)

主婦から世界の書家へ、華々しく転成した齋藤翠恵さん。清楚でたおやかな佇まいからは想像もつかない剛健な書は、女性の内面に潜む力強さからくるものだろうか。男手、女手をたくみに使い分け、生きる歓びに満ちた書を書き、新たな世界を切り拓く。

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