コラム

八重葎

2019年9月12日

 葎(むぐら)とは、ぼうぼうと生い茂る雑草のこと。そこに、たくさんを意味する「八重」がついて「八重葎(やえむぐら)」。分け入るのもたいへんなくらい、雑草が生い茂っているのでしょう。小倉百人一首に、その様子を表す歌があります。

 

―― 八重葎 しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり

 

(たくさんの雑草が生い茂り、荒れ果てた家に訪れる人は誰もいないけれど、それでも秋はやってきたのだ)

 

 中古三十六歌仙の一人で、播磨国の講師(こうじ=僧侶の監督)だった恵慶法師が詠んだ歌です。

 

 植物学者の牧野富太郎の言葉をうけ、昭和天皇が側近に「雑草という草はない」と言われた話は有名です。たしかに、どんな植物も名前で呼べば愛着もわきますね。

 

 名もなき草花も、雑草というより八重葎と呼んだほうが、なんとなく美しい響きを感じませんか。

 言葉は文字である前に、音の響き。同じものでも、響きが違えば印象は変わります。容姿にかかわらず、美しい言葉を使う人が美しく見えるように。

 

 ちなみに、「ヤエムグラ」という名の雑草も存在します。道端や藪畑などで見かける「ひっつき虫」。

 どんな場所でもたくましく生き、小さく可憐な花をつけるヤエムグラですから、やっぱり名前で呼んであげたいですね。

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