美しとき

月夜の晩に・・・

2023年11月14日

その夜はうつくしい満月でした。
しかも、明け方のいっとき月食だったようです。
太陽と地球と月が直線上にならび、月が地球の影で隠れてしまう月食。
その日は一部分だけが欠ける部分月食でした。
なかなかお目見えできない天体ショーということもあって、夜空を見上げた人も多かったのではないでしょうか。
あるところでは間近に迫ったハロウィンのお祭り騒ぎで騒々しい一夜だったとか。
変身した狼たちが月に吠えていたのですね。

 

わたしの住まいはことのほか静かで、ゴミ捨てのついでに満月とすぐそばの木星をしばらく眺めていました。
夜気は冷たく、凛と張りつめた夜空に満月と木星が煌々と輝いていました。
昔なら、この月明かりだけで歩けただろうなあ、と思うほどに。
満月はもちろん、それに負けないぐらいに木星はくっきりと光を放って、それはそれは美しい月夜でした。
じっと眺めていると、自然に手と手が合わさるのもふしぎ。
掌のぬくもりに呼応するように胸の裡もほっこりしてきて、こうして生かされているふしぎに感動しました。
「この月を見られただけで、生まれてきた甲斐があった、生きていてよかった」と。

 

つくづく生命のふしぎを思います。
分子生物学者の村上和雄さんによれば、人は1億円の宝くじが10回連続であたるくらいの確率でこの世に生まれるのだとか。それほどに生命誕生は奇跡的なこと。
生まれただけでも奇跡なのに、そのおかげでいろんな出会いをし、いろんな経験ができている。
途方もない物事のおかげで生かされ今がある。
おまけに、こんな美しい月を見られるのですから。なんともありがたいかぎりです。

 

いにしえの人びとも眺めたであろう月。
時を経て、今こうやっておなじ月を眺めているふしぎ。
眺めれば眺めるほど月に吸い込まれそうで、もしかしたら、そうやって吸い込まれていった人もいたのではないかと思うほど、満月は魅惑の光に満ち満ちていました。

 

人の思念がつまった満月。
変身させられた狼たちが月に吠えるのもわからなくもない。
月の向こうがわから、かぐや姫が思念を抱いて降りてくることもあったでしょう。
人もモノも風景も、光に満ちたものほどふしぎな暗い影をまとっているもの。
そんなことを考えふけった月夜でした。

(2023.11.14. no.1)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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