美しい日本のことば

草紅葉

2022年9月26日

 真っ赤だな 真っ赤だな 

 つたの葉っぱが真っ赤だな

 もみじの葉っぱも真っ赤だな……

 

 童謡『真っ赤な秋』の影響でしょうか。「もみじ」と聞くと、赤く色づいた楓の葉が浮かびます。幼い頃は、これだけが「もみじ」だと思っていましたが、ちがうのですね。

「もみじ」というのは「もんで色を出す」「色を揉み出づる」という意味で、特定の木の葉のことではありませんでした。

「紅葉」とする平安時代前は「黄葉」を「もみち」と読んだそうで、緑から黄、赤、紅と、うつろいゆく植物の色をつぶさに眺めていた先人たちが、もっとも美しく変化してゆく楓を「紅葉(もみぢ)」と呼ぶようになったのだとか。

 

 木々の葉の色鮮やかな秋の風景は、今も昔も変わらず人のこころをとらえますが、よくよく眺めてみると、紅葉は足下からはじまっていることに気づきます。

 木々が色づくもっと前。夏も盛りをすぎたころ、草たちが涼やかな風をうけて「一足お先に」とでも言いたげに、足下を錦の秋に変えてゆきます。

 

 一雨に濡れたる草の紅葉かな (日野草城)

 

 ひと雨ごとに色づきはじめた草紅葉が野の花に入り混じった景色は、ほのかにあわれを誘うのか、秋の野をいっそう美しく魅せてくれます。日本画にもたくさん描かれていますが、露をおいてゆっくり色づいてゆく草紅葉の姿には、ほ〜っとため息がもれるばかり。

 ふだんは顧みられることのない草たちが、今生の命とばかりに絞り出した紅葉の色は、まるで足元を照らす灯のようにも思えてきます。

(220926 第119回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

  • 作家紹介
  • 美しとき
  • 美しい日本のことば
  • メッセージ
  • お問合わせ
  • 美し人GALLERY
このページのトップへ