美しい日本のことば

さわやか

2022年10月17日

 さわやかな風、さわやかな青年、さわやかな味……。「さわやか」という言葉には、どこか青い、ミントの香りのような、すっきりさっぱりとした、切れ味の良さを感じます。「爽快」という言葉が示す、清々しく気もちのいいイメージ。だからなのか、「さわやか」は「若さ」の象徴のような気がします。

 とはいえ、「若さ」は歳若いこととはかぎりません。本来「さわやか」は鮮やかではっきりしていることを意味しており、天高く、空が澄みわたった秋晴れにこそふさわしい言葉。「爽涼」「秋爽」とならんで秋の季語でもあります。「爽」の文字が、人が衣をつけて舞う姿をあらわしていることから、美しく若々しい姿、とも言えそうです。

 

「己六才より物のかたちを写すの癖ありて、半百のころよりしばしば画図を顕すといへども、七十年前描くところは実にとるに足るものなし。七十三にしてやや禽獣虫魚の骨格草木の出生を悟し得たり。故に八十才にしてますます進み、九十才にしてなおその奥意を極め、一百歳にしてまさに神妙ならんか。百有十歳にしては一点一格にして生けるがごとくならん。願くは長寿の君子予が言の妄ならざるを見るたまふべし」

 

 晩年の自分を「画狂老人卍」と称して、終生画境を追い求めた北斎。願った100歳には至りませんでしたが、その姿は若々しく美しい。ほんとうは、老いるほどに無駄なものが削ぎ落とされ、心は澄みきって清らかになってゆくのでしょう。

 北斎の、老いのさわやか、秋風のごとし、ですね。

(221017 第120回)

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