美しい日本のことば

三(み)つの花

2022年1月17日

 美しいものを花に喩えるのが好きな日本人は、内に篭りがちな寒い冬でも美しい花を愛でたいと思ったのでしょう。

 凍りつくような寒い朝、大地を覆い尽くすようにキラキラと霜が降り立ちます。この霜が「三つの花」です。これに対して雪は「六つの花」と呼ぶのですから、どんな季節にも悦びを見出そうとする先人たちには頭が下がります。

 霜をまとってキラキラと輝く枯葉や草は、まるで砂糖菓子のようにも見えて、三つの花というより蜜の花とも言えそうですね。

 

―― たんぽぽのわすれ花あり路の霜(蕪村)
 
 咲くはずのないタンポポが、冬の道端で散り忘れたように花を咲かせているのを目にした蕪村。といっても、それは霜。太陽の光に照らされて、黄金色に輝く霜がタンポポそのものに見えたのでしょうか。

 

 霜は水蒸気が昇華した氷の結晶。命を終えた花が天に昇り、ふたたび舞い降りて三つの花になったのだとしたら……。

 農作物には害のある霜ですが、それも万象の姿。辛く寒い冬にしか見られない、三千世界に咲く美しい氷の花景色です。
(220117 第105回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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