コラム

波の花

2021年12月13日

 古来より花にちなんだ言葉は多いですが、「波の花」もその一つ。冬の荒波に打ち寄せられた白い泡を花に喩えて「波の花」といい、花柳界では「塩」の隠語としても使われます。

 

 古くは宮中に使えた女官たちが、「女房ことば」として上品に塩を波の花と言ったそうで、女房と言えば、かつては上官に遣える秘書のような機転のきく頭のいい女性たちを指す言葉でした。

 今では真っ先に家人である「妻」か、あるいは「女房役」という側近を思い浮かべるかもしれませんね。いずれにしても気配りの行き届く人は、男女問わず女房なのでしょう。

 

 日本人の忌み言葉を避ける風習から、「塩」は「死」や「しおれる」を連想するとして「波の花」と言い換えられたようで、後に料亭などで使われたのも、客の前で「塩(死を)ください」と言うのをはばかった芸妓さんたちの粋な心配りだったのかもしれません。

 

―― 波とのみひとつに聞けど色見れば 雪と花とにまがひけるかな(『土佐日記』より)
(耳には波の音に聞こえるだけだが、その色を見れば雪とも花とも見まごうばかりだ)

 

 知識も教養もあり、所作の美しい芸妓たちは「おもてなし」の達人。そのルーツである花魁たちが街に花を咲かせ、荒波を泳ぐ男性たちの味気ない日常に、儚くも美味なるスパイスを添えていたのもわかる気がします。
(211213 第103回)

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