コラム

木枯らし

2021年11月25日

 秋の終わりと冬の始まりを知らせる冷たい北風が、「木枯らし」です。国字で「凩」と書けば、色づいた木の葉を散らしてゆく風が目に浮かびますね。
 木枯らしは何日も吹き続けるわけではなく、突然吹いてきたかと思うと、半日か1日ほどで吹き止み、翌日はきまって穏やかな小春日和になるそうです。
 

 秋と冬は押し合いへし合いしながら入れ替わります。氷雨、木枯らし、小春日和、この繰り返しで樹々の葉はすっかり土に還り、これを合図に万物は沈黙するのです。

 

―― 凩や海に夕日を吹き落とす(夏目漱石)
 
 漱石の目には、海に落ちてゆく夕日も木枯らしのしわざだと映ったのでしょう。万物を産んだ母なる海のもとへ還ってゆく夕日。それはまるで生命の終焉を見るようでもあり、新たな生命の誕生をも予感させます。

 

「凩の言水」の異名をもつ池西言水も

 

――凩の果てはありけり海の音

 

 と、生の先に待つ死に思いを馳せて、木枯らしが吹き鳴らす潮騒を聞いていたようです。

 

 終わりがあれば始まりがある。冬の沈黙は、その静けさの分だけ、春の讃歌を待つ喜びに満ちています。木枯らしに散る木の葉の美しさに、生々流転の儚くも美しい生命の神々しさを感じます。
(211125 第102回)

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