コラム

色なき風

2021年10月14日

―― 吹き来れば身にもしみける秋風を 色なきものと思ひけるかな(紀友則『古今六帖』)
 

 身にしみる秋風を色なきものと歌った平安の歌人・紀友則。色艶やかに染まる錦の秋には、まるでそぐわない「色なき風」ですが、出どころは万物の成り立ちにありました。
 

 天と地の間に流れる精気、木・火・土・金・水の陰陽五行説になぞらえると、秋は「金」、その配色は「白」、これを下敷きに秋の風を「色なき風」と歌ったのです。
 一方、藤原朝臣敏行は白を色の遣いと見たようです。

 

――白露の色はひとつをいかにして 秋の木の葉をちぢに染むらむ(藤原敏行『古今和歌集』)
 
 白露は白一色にもかかわらず、どうやって秋を錦に染め分けるのか。
 白を色なき風と見る人もいれば、木の葉をさまざまな色に染めるのは白い露と見る人もいる。見方は人それぞれですが、色なき風も白露も、美しい色に魅せられたがゆえの思いなのかもしれませんね。
 色のないところに色を見みるのは、なにもない白だからこそ。町も山も染め上げる色なき風に吹かれると、心の風景も美しく色づいてゆくような気がします。
(211014 第101回)

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