コラム

おかげさま

2021年9月6日

「おかげさまで、なんとか無事に…」と、普段なにげなく使っている「おかげさま」は、外国語では表現しづらい日本ならではの言葉です。英訳されると、「Thank you for your help」「Thanks to you」と、「for」や「to」の後には必ず対象の人やその行為などが入ります。

 しかし、日本人の「おかげさま」は、はっきりとわかるものだけを指しているのではありません。影で支えてくれている、目に見えない人やモノ、神仏への感謝の気持ちも込められています。

 

 江戸時代に起こった伊勢神宮への「御蔭参り」が「おかげさま」の始まりかとは思いますが、それ以前から日本人の心には目に見えない存在、隠れているものへの畏敬の念がありました。それを裏付けるもののひとつに「暦」があります。
 旧暦の太陰太陽暦は月の満ち欠けから時の流れを測ったものですが、太陽暦に変わった今でも太陰の「月」の存在が日々の暮らしに大きく関わっていることは言うまでもありません。
 だとしたら、「おかげさま」は「お月さま」とも言えそうですね。画家の堀文子さんも、生前「お月さま」という言葉が気になったそうです。

 

―― 月は日本人の美意識の頂点にあると思う。その月を、お月さまと呼んだ日本の言葉がふと気にかかった。暮らしの中の大切なものに「お」という敬語をつけた日本語。お日さま、お月さま、お星さま。天体には様までつけて敬う。大切な食べ物にはお米、お塩、お酢、お味噌、お茶、お酒……。

 

 こんな風に慎み深い日本語で私たちは育てられたのだと、堀さんは大切なことを言い遺してくれました。

 

 今はなき古人たちに守れ、暮らしの中のたくさんのおかげさまで、私たちは生き長らえている。見えるときも見えないときも、今も昔も変わらずそこにある月が、そのことを教えてくれているような気がします。
 (210906 第97回)

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