美しい日本のことば

夕間暮れ

2021年9月13日

 一日の中で、美しさと寂しさが同居する時間といえば、夕ぐれ時でしょうか。一年の中では秋。「秋は夕ぐれ」と言った清少納言の気持ちがよくわかります。
 

 夕ぐれを「夕間暮れ(ゆうまぐれ)」とすると、さらに時のあわいが感じられるような気がしませんか。

 昼と夜のあわい、日が落ちて、だんだんとうす暗くなっていく静かなひと時。目よりも耳のほうが敏感になる「まぐれ(目暗れ)」どきには、風の音や虫の音がよりいっそう耳につきます。

 

 ――花をこそ 野辺のものとは 見に来つれ 暮るれば虫の音をも聞きけり(西行)

 

 野辺に咲く秋草の花を見に来た西行も、日が暮れると虫の音に心が奪われたようです。しかしこれも日本人だからこそ。欧米人には虫の鳴き声は雑音にしか聞こえないのだそう。なにもないところに音を聞き、色を見る日本人の「間」の感性は、虫をも音楽家にしてしまうのですね。

 

「チンチロチンチロチンチロリン……リンリンリンリンリインリン」

 

 夕まぐれに虫たちの楽しそうな歌声が聞こえたら、長い夜のはじまりです。
(210913 第98回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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