コラム

彩雨

2021年6月21日

 画家の造語でしょうか、川合玉堂の代表作に『彩雨(さいう)』という雨にけぶる紅葉の風景を描いた作品があります。 色のないはずの雨に色を見て、紅く色づくもみじの山里に彩雨を降らせています。

『万葉集』の中にも、それと思わせる歌があります。
 
 ――しぐれの雨 間なくしふれば三笠山 木末(こぬれ)あまねく 色づきにけり(大伴稲公『万葉集』)
 
 風に色がないように、雨にも色はありません。ですが、不思議と色を感じることはありませんか。春にはピンクの、夏には緑の、秋は赤や黄色、冬は白やグレーなど、色づく草木に触れながら風や雨は色を変えます。
 ところが眺めれば眺めるほど、色づけているのは草木なのか、それとも風や雨なのだろうかと、錯覚しそうになることも。とりわけ雨に咲く紫陽花は、まるで色水に染まってゆくように、一雨ごとに花弁を七色に染めてゆきます。
 

 今はその色の移り変わりも化学変化のゆえだと証明されてはいるものの、そんな色気のない理由よりも、彩雨のしわざとした方が、雨も花もひときわ美しく目に映ります。

 どんよりと空を覆う雲の中で、とりどりの色水が作られているとしたら・・・。

 そう考えるだけで、うつうつとした灰色の心にも鮮やかな虹がかかりそうな気がします。

(210621 第91回)

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