美しい日本のことば

銀舎利

2021年6月8日

 銀舎利とは、ご飯、白米のことです。寿司屋でなじみの「シャリ」は酢飯ですが、そもそも「舎利(シャリ)」は仏舎利といって、お釈迦様の遺骨をあらわす仏教用語。それが白米の隠語になったのは、日本人の神々への信仰心の表れでしょうか。たしかに、炊きたてのつややかな白いご飯は神々しさを感じます。
 

 ご飯が炊けるときの甘く芳ばしい香り、釜の蓋をあけたときに立ち上る白い湯気、透明感のある白銀にひかり輝く米飯は、その一連の流れまでもが尊い仏様が荼毘にふされる姿のようで、ご飯を「銀舎利」といって真っ白い骨に喩えたというのもわかる気がします。
「白」をデザインするグラフィックデザイナーの原研哉さんも、著書『白百』で「白」は頭蓋骨に由来する象形文字だと書いています。
 
 しかし、米本来の栄養を見れば、むしろ白く精米される前の茶色い玄米のほうが栄養価も高いはず。だとしても、古代より「白」は美や尊いものの象徴として人々の意識にあり、食べ物がそれほど豊かでないときの「白いご飯」は、なによりの贅沢品だったということです。
 
 米には7人の神が宿ると信じてきた日本人。食膳にのぼるまでには八十八もの行程があるとされる米。ひとくちのご飯に、どれだけの神人の力が宿っていることでしょう。
 舎利はやがて土に還り、巡り巡って五穀豊穣をもたらし、生きとしいけるものを育みます。尊い生命の循環に思いを馳せながら、ときには贅沢な銀舎利をいただくのもいいですね。

(210608 第90回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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