コラム

玉の緒

2021年5月12日

「玉の緒」とは、いのちのことです。玉は魂をあらわし、緒は肉体と霊魂をしっかりつなぎとめる紐のこと。つまり、心と体がひとつになった生命体が「玉の緒」です。
 もとは宝石をとおす紐や、玉飾りそのものを玉の緒といったそうで、それを「いのち」とすれば、生命が宿った形は勾玉(まがたま)のようにも見えてきます。
 へその緒でつながる母子の姿。肉体を与えられてこの世に誕生する霊魂。まっさらで純真無垢ないのちの誕生です。
 しかし、この世はままならず、まっさらないのちは翻弄され、肉体と霊魂はせめぎ合うことに。

 後白河法皇の皇女、式子内親王もその一人でした。
 
 ―― 玉の緒よ絶えねば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする
 
 立場ゆえ恋愛も結婚も許されず、忍ぶ恋に身も心もぼろぼろになった女帝は、「命よ絶えるなら絶えてしまえ!」と心の内を吐露します。このまま生きながらえていれば、がまんも限界になって恋に取り乱すわが身を人目にさらしてしまうと、せつない女心を告白したのです。
 

 恋愛にかぎらず、生きていれば身も心も張り裂けそうになることは、だれにも一度はあるのではないでしょうか。それでもいのちは生きようとします。喉がかわき、お腹もすく。髪や爪も生きたいのだと言わんばかりに伸びてゆきます。玉の緒の先にある何かとつながろうとするかのように。
 古人が魂を玉としたのは、それが美しいものと気づいていたから。あまりにも美しすぎて、傷つきやすく、壊れやすい。けれどまた、玉は磨けば光り輝くことも、鍛えれば頑丈な緒になることも、彼らは教えてくれているような気がします。
(210512 第89回)

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