コラム

美人

2021年2月28日

 美人=姿形の整った見目麗しい美しい女性。これが一般的な「美人」のイメージでしょうか。時代を象徴する美しい女性たちを描いた美人画や、文学、写真、映像といった芸術作品の多くが、「美人とはこういう女性」と定義づけていることもイメージづくりに一役買っているかもしれませんね。

 

 しかし、美人というのは女性に限らず、尊敬する賢人、才能や徳のある人も指すようです。
 だからでしょうか、人は美しいものに魅了されると同時に、畏れも感じることがあります。あまりの神々しい美しさに胸が震え、思わず涙がこぼれることもあるでしょう。

 ノーベル文学賞を受賞した川端康成は、受賞記念講演でこうスピーチしています。
 
「雪の美しいのを見るにつけ、月の美しいのを見るにつけ、つまり四季折り折りの美に、自分が触れ目覚める時、美にめぐりあふ幸ひを得た時には、親しい友が切に思はれ、このよろこびを共にしたいと願ふ、つまり、美の感動が人のなつかしい思ひやりを強く誘ひ出すのです」(『美しい日本の私』より)

 
 このときの「友」を、川端は広く「人間」とも捉えています。
 そもそも「美」の文字は「羊」と「大」の組み合わせ。まるまると肥った羊だから「おいしい」という意味が発端です。

 古代中国では、羊は山の神として崇められ、また欠陥のない肥えた羊は神への捧げ物に使われていました。そこから成熟した羊を「美」とし、やがて「めでたい」「よい」「綺麗」と美の意味も広がっていったようです。
 

 辞書を引くと「美し」は「慈し」や「厳し」とも書き、古くは「慈しむ」「愛しむ」を「うつくしむ」と読んでいたのだとか。荘厳な美が人を癒し、慰めるのもわかるような気がします。

 だとすると、美しさの正体は慈しむ心、愛おしむ心。美しい人、美人とは慈悲深い人のことだったのですね。
(210228 第84回 絵:上松松園『母子』)

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