たなごころ
2020年12月9日
手と手を合わせる合掌の「掌」が「たなごころ」。手のひらのことです。古語では「手」を「た」、「な」を「の」と読むことから、「掌」とはつまり「手の心」。仏心を表す右手と、衆生(私心)を表す左手を合わせて拝めば、祈りになるというのもうなずけます。
ひらひらと翻す様子から生まれたのでしょう、手のひらを返す、たなごころを返すといえば、態度が一変するという心変わりを表す言葉に。晴れたり曇ったり、表に裏にと、ころころ変わるものが心と手ならば、どちらも気分次第、状況次第。自分の采配ひとつで変えられるということですね。
手のひらと言えば、病や怪我の処置をする手当。手のひらで患部をさすったりあたためたりするだけで痛みが治まるというのも不思議です。子供のお腹に母親がそっと手を置くと子供は安心して眠りに着くこともあるそうで、たなごころとはまさに母心(親心)。
手を繋いでも握手をしても、なんとなく相手がわかる。手作りのご飯がおいしいのも、たなごころが心を伝える場所だからかもしれません。
(201209第80回)
著者:神谷真理子
兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)