美しい日本のことば

月影

2020年10月31日

 月影(つきかげ)とは、月の影であると同時に月の光でもあります。とりわけ歌に詠まれる月影は、夜空からふりそそぐ月の光を言うのでしょう。英語ならmoonligtと、はっきり月の光とわかりますが、光の対局にある影をも光とみるのは日本人ならではでないでしょうか。

 法然上人もこんな歌を詠んでいます。

 

 ―― 月影のいたらぬ里はなけれども ながむる人の心にぞすむ

 

 月の光が届かないところはないけれど、その光は眺める人の心にこそすんでいるものだと、「住む」を「澄む」にかけて光の在処を伝えているように思います。

 

 光があるところに影はできる。光が強ければ強いほど影は色濃く、真っ暗な闇となるでしょう。言いかえれば、影があるところに必ず光はあるということ。たとえ暗闇であろうとも、恐れず闇に対峙すれば、光の在処がわかるはず。

 

 影を眺めながら光を見、光を眺めながら影を見ることができたなら、まんべんなくゆきわたる月影のように、心も澄みわたってゆくのかもしれません。

(201031 第78回 歌川広重「名所江戸百景 猿わか町よるの景」)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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