コラム

夜振火

2020年8月26日

 夏の夜、川面に灯りをともすと光に吸いよせられるように魚が集まってきます。この灯火が「夜振火(よぶりび)」。古くは江戸時代からあるとされる川漁の方法のひとつで、「夜振」や「夜振の火」」とも合わせ俳句の季語にもなっています。

 

―― 雨後の月誰ぞや夜ぶりの脛白き (蕪村)

 

 闇夜にともる月のような夜振火と、光に照らされ白く浮かび上がる夜振人の脛を見つめる与謝蕪村。ほのあかるい光明は人も魚も引き寄せるのでしょう。

 

 魚を集める光が夜振火ならば、おなじ闇夜に人を魅了する光の代表といえば、螢でしょうか。ゆらゆらと水辺をたゆたう小さな光は幻想的で、まるで冥界に迷い込んだような気分になります。

「夏はよる」と清少納言も詠んでいるように、月のころも、たくさんの螢も、ひとつふたつの螢でも、 夏の夜にほのかな灯りはよく似合います。

 

 ところで、螢の光にはどこか哀愁がただよっているように思いませんか。つかの間の命だということを螢が知っているからでしょうか。ぼんやりと明滅する光は命の灯火。天空へ還ってゆく魂のようにも思えます。

 夜振火に引き寄せられる魚と螢の光に魅せられる人。光を求めるのは生きものの習性なのかもしれませんね。

(200826 第75回 画:川瀬巴水『大宮見沼川』)

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