コラム

雲の鼓

2020年7月15日

 雲に鼓とくれば、鬼。「風神雷神図屏風」の雷神が浮かびませんか。そのとおり、「雲の鼓(くものつづみ)」とは「雷」のこと。雲にのって現れた鬼神は、握りしめたバチで連鼓を打ち鳴らします。ドドーン、ドドーンという激しい音が聞こえてきそうですね。

 

 大地を震わせ天をつんざく轟音は、きっと神様のしわざにちがいない。そう考えた人々は、神の鳴らす音、「神鳴り」として恐れおののいたと言います。

 ところが不思議なことに、轟音とともに雲間を割いた光りが瞬間空を照らしたかと思うと、嵐は去って豊かな実りが待っていることを知るのです。

 神が鳴き、光が走れば稲が実る。実りをもたらす光はきっと、稲の「夫」にちがいない。人々は、この神が落とす光を稲の夫(つま)、「いなづま(稲妻)」と呼んで天に感謝するのです。

 

――よろずの仏の願(がん)よりも 千手の誓ひぞ頼もしき

  枯れたる草木もたちまちに 花咲き実なると説いたまふ (『梁塵秘抄』より)

 

 千手観音の眷属とされる風神と雷神。雲を引き連れ、嵐を巻き起こすのも、観音さまの命とあってはいたしかたないのかもしれません。

 恐れず雲の鼓を聴いてください。天に轟く万雷は、雷神さまの祝福の音。ドンと胸に響いてきたら、きっと穏やかで実りある豊かなときが、すぐそこまで来ているはずです。

(200715 第73回  絵:俵屋宗達『風神雷神図屏風』の雷神部)

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