美しい日本のことば

五月雨

2020年6月13日

 五月の雨、「さみだれ」です。旧暦の5月、新暦では5月下旬から7月上旬にかけて降る長雨がそれ。梅雨のことを指しています。

 梅雨の季節に東北を旅していた松尾芭蕉も『おくのほそ道』で歌っています。

 

 ―― 五月雨を集めて早し最上川

 

 雨を集めた川は膨れ上がり、押し出されるようにごうごうと音を立てて目の前を流れていったのでしょう。長雨がつづいたあとの最上川の激流におののく芭蕉が目に浮かびます。

 

 天から落ちてきた水、「あめみ」が「あめ」に変化したとされる「雨」。降るも止むも天の気分しだい。恩恵になる雨もあれば、災難になる雨もあります。天のはからいで降る雨は、やがて生命の源である大海へと運ばれてゆく。遠いむかしから連綿と続く自然のはたらきですね。

 最上川を眺める芭蕉は、「ゆく河の流れはたえずして、しかももとの水にあらず・・・」という鴨長明の無常観をも眺めていたのかもしれません。

 

 穏やかにも荒々しくもなる川の流れはまるで、人生のよう。人の力ではどうすることもできない雨だけれど、5月の空からひたひたととめどなく垂れてくる天水が、天の恵みでありますように。

(200613 第72回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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