コラム

たゆたう

2020年1月6日

 あっちへゆらゆら、こっちへゆらゆら…。かなたこなたへ揺れ動くことを「たゆたう」と言います。漢字では「揺蕩う」。あえて意味を語らなくても、字面からなんとなくイメージが湧いてくることでしょう。

 それというのも、日本語の多くは自然を映しとって生まれたもの。四季折々の風物をながめ、心に感じたままを音にのせているからです。
 たとえば「ざわざわ」と騒がしい音は「騒騒(さいさい)」と表現したり、「そよそよ」から「そよぐ」や「微風(そよかぜ)」という言葉も生まれています。

 ちらちら、びゅうびゅう、ごろごろ、がらがら、しんしん、きらきら、ぽつぽつ、ちょろちょろ、ぼちぼち……など、日本語には自然から受け取った擬音語がたくさんあります。

 人と自然は一心同体。そう古の人たちは考えていたのかもしれませんね。

 自然が奏でる音は、心が奏でる音と同じ。天気で気分が変わるように、自然のうつろいは心にも大きく反影します。

 

―― …百年の樹の、若い枝々の先に、やわらかな煙のように、春の予感がたゆたっている。どれほど痛恨にみちていても、人の負う人生は、早春の穏やかな一日におよばないのだ。(長田弘「クロッカスの季節」より)
 
 朽ちてゆくもの、生まれゆくもの。喜びがあれば悲しみがあり、失うものがあれば得るものがある。ながれゆく時の風には、新しい時節を告げる薫りがたゆたっています。

 ざわざわ、わくわく、びくびく、どきどき……自然のうつろいとともに、たゆたう心を味わってください。
(200106 第62回)

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