コラム

おとなう

2020年1月1日

「おとなう」とは、音をたてること。あるいは、訪れること。手紙を出す、という意味でも使われます。並べてみると、「おとなう」には存在を示す意味があることに気づきませんか。漢字にすれば「音なう」「訪う」「手紙」と、それぞれ違った意味で使われることが多い言葉ですが、それでもどこか通じ合うのは、聞こえてくる「音」の響きのしわざでしょうか。
 
 ゴーン、ゴーン……と百八つの鐘が鳴り、一年が幕を閉じると元日。新しい年が幕を開けます。108という数字は、仏教でいう煩悩の数。人間がもつ眼、耳、鼻、舌、身、心の六根に潜む悩ましい情念の多さを表していると言われています。除夜に鐘を鳴らすのは、一年に溜まった煩悩を祓うため。身も心も清らかになって新年を迎える儀式だそうです。
 
―― 仏は常にいませども 現(うつつ)ならぬぞあわれなる 人の音せぬ暁に ほのかに夢に見えたまふ(『梁塵秘抄』第二 法文歌)
 
 いつもそばにいるはずの仏さまは、はっきりと姿を見せないからこそ尊いと思う。静まり返った暁に、ほんの少しだけ夢に現れるだけだ、と歌っています。
 

 大掃除の賜物なのか、年末から年始にかけて、人も街も清らかな空気をまとっています。

 ほんとうは誰の心の裡にもある仏のこころ。除夜の空におとなう響きは、内に眠る清らかな仏の姿を一目見たいと願う人々の心の音なのかもしれません。

(200101 第61回)

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