コラム

心の杉

2019年8月3日

 杉といえば、杉花粉。花粉症に悩まされる人々の大敵ですね。およそ50年前に人工的に植樹された杉の木が、時を経て猛威を振るっていることに人々は憤懣やるかたない思いを抱いていることでしょう。
 でも、当の杉の木にしてみれば、そんなに嫌わなくても……と言いたいところ。望んでそうなったのではないのですから。

 

 もともと杉は人々に愛されていた木。神様が降臨する木として大切にされ、今も神社仏閣で立派な杉の木を見かけます。
 まっすぐ天に向かって伸びる杉の木の姿を心にたとえ、正直でまっすぐな心のことを古人は「心の杉」と呼びました。

 

 ―― 北山杉のまっすぐに、きれいに立ってるのをながめると、うちは心が、すうっとする。

 

 小説『古都』の中で、川端康成はヒロインである千重子の口を借りて、杉の木の美しさを語っています。たとえ人工林であったとしても、凛と立ちならぶ杉の姿は美しいと。

 

 正直にまっすぐに生きることは美しい。けれど、まっすぐなだけでも生きづらくなる。人も木も、生きていくのは大変ですね。

(絵:東山魁夷『冬の花』)

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