美しい日本のことば

はちす

2019年7月14日

 泥より出でて清らかな花を咲かせる蓮の花。その実が蜂の巣に似ていることから、もとは「はちす」と言いました。

 蓮の開花時期は、7月12日から16日ごろ。七十二候でいうところの「蓮始開(はすはじめてひらく)」です。
 暦どおり、ほころんだ蓮の花を見かけるのは、早朝から午前中にかけて。午後は固く閉じてしまいます。

 朝靄の中、泥池の上でひっそりと咲く蓮の花の美しいこと。江戸時代には、この早朝の蓮を一目見ようと、蓮見に舟を漕ぎ出す人たちもいたようです。
 平安の時代を生きた僧侶、遍照も蓮に心を奪われたひとり。六歌仙・三十六歌仙の一人として歌を残しています。
 
 ―― はちす葉のにごりにしまぬ心もて
    なにかは露を玉とあざむく

 

(泥の中で育った蓮の葉は、濁り染まらない清らかな心をもっているはずなのに、なぜ露玉を宝玉に見せかけ人をあざむくのか)
 
 清らかなはずの心も、ときとして泥のように濁ることがあると、遍照は言いたかったのでしょうか。蓮の葉の上をころがる露玉は、まぎれもなく美しい。けれど、邪な心がその美しさを見せかけにする。
 僧侶であろうと人は人。心の濁りは、眼を曇らせます。
 

 蓮華をひねって微笑んだお釈迦様の心を、即座に理解した弟子の摩訶迦葉。もしも彼の心に濁りがあったなら、仏教がこれほど花開いたでしょうか。
 そのとき、その一瞬の心のあり方が、美しい花を咲かせるのかもしれませんね。
(190714第49回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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