コラム

落とし文

2019年5月13日

 かつて、公然と言えないことを匿名の文書にし、わざと落としておいた手紙のことを「落とし文」と言いました。権力者への批判や社会風刺はもちろん、好きな人への恋心などは面と向かっては言えませんよね。ネット社会の今では考えられませんが、昔は「落とし文」が伝達手段のひとつだったのです。
 

 この落とし文、昔だけのものかと思いきや、実は、今もあちこちで見られるのを知っていますか。
 そのひとつが落書き。落とし文は「落書(らくしょ)」ともいい、今でいう落書きのもとになったもの。公共施設や文化財への落書き問題のことを考えると、ちょっと残念な気がします。
 

 とはいえ、初夏にはその名にふさわしい風流な姿も見せてくれます。
 夏の初めごろ、くるんと巻いた巻紙のような葉に卵を産みつけ地上に落とす虫がいます。その名も「オトシブミ」。そして、その葉自体も「落とし文」といい、夏の季語にもなっています。「ウグイスの落とし文」や「ホトトギスの落とし文」とも言うのだそう。
 

 見た目の可愛らしさからでしょうか。「落とし文」と銘のついた生菓子も、初夏のころに見かけます。淡い青葉の練り切りであんを包み、雫のような白い粒がのった様子は涼やかで、茶席での茶菓子としても有名です。
 風薫る季節にぴったりの御菓子。一口食べるごとに、言葉にならない思いが溢れてくるかもしれませんね。
(190513 第44回)

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