コラム

玉箒

2019年5月2日

 玉に箒と書いて「たまははき(たまばはき)」。酒の異名です。本来の意味は、その名のとおり、玉飾りのついた箒のこと。昔々、正月の子の日に蚕室を掃くのに使った小さな箒をこう呼びました。

 年の初め、天子は自ら田を耕し豊穣を祈り、皇后は蚕室を掃いて養蚕の神を祀る儀式を行いました。奈良時代に中国から伝わった初子の儀式のひとつです。このときに使われたのが玉箒。箒草を束ね、持ち手に布を巻いて玉飾りをつけたこの箒は今、正倉院に宝物として収められています。

 大伴家持は正月三日の歌会で、この儀式の様子を歌にしました。

 

― 初春の初子の今日の玉箒 手に取るからにゆらく玉の緒(万葉集20)

 

 

 かつて、貧しくとも清潔に暮らしていた日本人に箒は欠かせないものでした。家の中を掃き清めるのは、ただ綺麗にするだけでなく、邪気を掃き出すという意味も込められていたのです。
 

 年の初めに使われた神聖な玉箒を酒にたとえたのは、ひとえに現世の憂い(患い)を掃き払うため。
「酒は憂(患)を払う玉箒」と蘇東坡が詩に詠んだように、心配事や悩み事もときには酒の力を借りて一掃するのもいいのかもしれません。ただし、酒は飲んでも飲まれるな。玉箒のように掃き清める美酒であるなら、酒も百薬の長になるでしょう。
 年の初めだけでなく、毎日が新しい一日。朝の掃除と夜の美酒は、溜まった邪気や憂いを掃き出してくれるのではないでしょうか。
(190502 第43回)

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