まどか
2019年4月20日
― ほのぼのとまどかに愛らしい。均整、優美の愛らしさでは、埴輪のなかでも出色である。この埴輪の首を見てゐて、私は日本の女の魂を呼吸する。日本の女の根源、本来を感じる。ありがたい。
(「川端康成全集」第15巻)
お気に入りの埴輪を手元において愛でる川端。文豪、川端康成は早くに両親を亡くしているためか、その作品からみても女性や母性への並々ならぬ思いがあるようです。
ここにみる「まどか」もそのひとつ。丸く穏やかなさまを表す「まどか」は「円」、「○」のことです。月なら満月でしょうか。光がみちみちて、夜空にぽっかりまあるい穴をあける。その向こうにはどんな光り輝く美しい世界があるのかと思うほど、差し込む光はおだやかで優しい。
なにもない空洞にこそ、光があることを知らせてくれているようです。
フランスの哲学者、ロラン・バルトは日本を見て「その中心(東京)は空虚」と言ったのだとか。おそらく皇居を指しているのでしょう。たしかに、日本の中心部はぽっかり穴があいたように見えますね。
人類が初めて撮影を成功させたブラックホール。闇に包まれていたその姿は、ドーナッツ型の神秘的な円でした。
真っ暗な闇にはなにかがある。おだやかでほのぼのと優しいまどかは、万物を生みだす光の根源なのでしょう。
(190420 第41回)
著者:神谷真理子
兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)