コラム

花筏

2019年4月9日

 頭上にも、足元にもむれ咲く桜。散ってなお美しい花は、桜をおいて他にはないような気がします。ましてや、水面に浮かぶ花筏(はないかだ)。舞い落ちた先が水の上というのもみごとですね。最後にひと花咲かせる桜の花の姿に、今も昔も変わらず人は心奪われます。

 

― 花さそふ比良の山風吹きにけり 漕ぎゆく舟の跡見ゆるまで

                     (新古今和歌集)

 

 比良の山(琵琶湖の西岸にある山々)から吹きおろす風が、湖面を渡る舟の後に水面の道を作るほどたくさんの桜の花を散らしている。

 

 水面を埋めつくす花筏の上を、すーっと水の糸を引きながら渡っていく一艘の舟が目に浮かびます。

 桜と言えば、「桜の詩人」西行は、こんな歌を残しています。

 

― 春風の花を散らすと見る夢は さめても胸のさわぐなりけり

 

 恋い慕う待賢門院との逢瀬が叶った夢を見て、胸を高鳴らせる西行。待賢門院は、彼が出家を決意する原因となった失恋の相手。それだけに、切ない恋心が伝わってきます。西行にとって、桜が思い出深いものとなったのもわかる気がします。

 春が来るたび、桜の花が咲くたびに、遠い昔をなつかしみ、はらはらと舞いちる桜を見るにつけ、あの人はどうしているだろうと想いをよせる。桜の花は、思い出を咲かせる花なのですね。

 

 ちなみに、葉っぱの上にぽつんと小さな花をつける「ハナイカダ」。植物好きには、こちらのほうが馴染みがあるかもしれません。別名を「ヨメノナミダ(嫁の涙)」というのも、何やら意味ありげではありませんか。

(190409 第40回)

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