美しい日本のことば

木末

2019年4月4日

 木の末と書いて「こぬれ」。木の枝さきのことです。今は「梢(こずえ)」と書くほうが一般的かもしれませんが、木の根元に対し、「木の末」とするほうが木そのものの樹形が浮かぶようではありませんか? 

 言葉には、先人たちの智慧や心象風景がつまっているのでしょう。
 
「こぬれ」は「木の末(このうれ)」が変化した言葉。草木の先端を「末」とし、「うれ」や「うら」と読みました。
 
ー あを山の木ぬれたちぐきほととぎす 啼く声きけば春は過ぎけり(良寛)
 
(山の木々の梢をくぐりわたるホトトギスの啼き声を聞くと、春は過ぎていったのだなあと思います)

 

 新緑に茂る国上山で、良寛はホトトギスの声に過ぎゆく春を偲んだのでしょう。
 ひとり山にこもり、単調な毎日を過ごそうとも、時は刻々と過ぎてゆく。
 めぐる季節の中で日々色を変える景色を、良寛はどんな思いで眺めていたのでしょうか。

 

 大地に根を張り、光の先へ木末をのばす樹木たち。

「どんな時代であっても、天と地の間でたくましく生きる彼らに何を思う」

 と、先人たちに代わって啼くホトトギスの声が聞こえてきそうです。
(190404 第39回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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