コラム

春疾風

2019年3月16日

 あたたかくなったかと思えば、また寒くなる。春の風物詩、三寒四温です。北上してくる南からの春の気配に、冬将軍が最後にひと暴れするのでしょう。とはいえ、春の陽気にはさすがの冬将軍もお手上げのよう。春と冬とのせめぎ合いは、春に軍配が上がります。
 

 あたたかい春の訪れは、生きとし生けるものの目覚めのとき。元気よく目覚めたいところですが、そうもいかず。

 花粉や気温の変化に「なんとなく身も心も気だるい」という人もいるのではないでしょうか。
 そんなおり、「喝!」とばかりに吹き立つ風が春疾風(はるはやて)。「はるはやち」とも言うそうで、ぼんやりとだらけてしまいそうな気持ちを引き締めてくれます。まるで、自然からの愛のムチのようですね。

 

 ― 風立ちぬ、いざ生めやも
 
 ポール・ヴァレリーの詩の一節を、堀辰雄はこう解釈しました。ジブリ映画にもなった小説『風立ちぬ』です。
 

 目に見えない空気が姿を見せるのは、風になったとき。それまで止まっていた何かが動き出したときに、風は立ちあらわれます。
 そして、止まったまま動こうとしないものに「動け!」と背中を押してゆく。「命のかぎり生きてゆけ」と。
 春は命爛漫の季節。生きものたちの命の息吹は、大きな風になって、新しい時をしらせてくれます。
(190316 第36回)

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