美しい日本のことば

日照雨

2019年3月1日

 日照り雨と書いて「そばえ」と読みます。その名のとおり、日が照っているのに、とつぜん降り出す雨のこと。

「通り雨」や「狐の嫁入り」とも言いますが、今でも田舎の方では急に雨が降り出すと、「そうばいじゃ」と言うお年寄りもいるのだとか。

「そうばい」とは「そばえ」がなまった言葉。ふざけるという意味の「戯え(そばえ)」につながっています。

 

 黒澤明の映画『夢』の第1話に「日照り雨」という話があります。

 日照り雨にあった幼い主人公が、母親から「こんな日は外へ出てはいけない。狐の嫁入りにあって、見ると大変なことになるから」と諭される。それでも子供は誘われるように林へ入っていく。そこで嫁入りの行列と出くわし、思いもよらないことが起こる、という話です。

 

 昔の人たちは、子供たちに恐怖心を与えることで、危険なことから回避させようとしたのでしょう。

「口裂け女」や「トイレの花子さん」などがそうですね。

「放課後、遅くまで学校に残っていたり、夜遅くまで外で遊んでいると、お化けがでるよ」と、母心から戯れに口をついて出てしまったのでしょうか。子供をおどしてでも、母親は我が子が一刻も早く無事に帰ってきてくれることを願っていたのだと思います。今も昔も、子を思う母の心は変わりません。

 

 ありえない状況で、ありえないことが起る。それはきっと、あっという間の出来事にすぎず、それほどこの世は不思議で満ちています。なかでも人の一生ほど、不思議なことはないような気がします。

(190301 第34回 画:鈴木其一「狐の嫁入り図」)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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