コラム

雪の下

2019年1月1日

 真っ白い雪のうえに、ほのかに浮かび上がるピンク色。もうそこまで春がきているのだと、梅の花はまっ先にその時を知らせてくれます。

 雪をかぶった梅の花のように、紅色の衣に白い衣をかさねた色を「雪の下(ゆきのした)」と言います。

 このかさね色を見ると、川端康成の『雪国』のワンシーンを思い出します。主人公の島村が、久しぶりに訪れた雪国で芸妓の駒子と再開したときのこと。

 

− 女がふと顔を上げると、島村の掌に押し当てていた瞼から鼻の両側へかけて赤らんでいるのが、濃い白粉を透かして見えた。それはこの雪国の夜の冷たさを思わせながら、髪に色の黒が強いために、温かいものに感じられた。

 

 寒中にありながら可憐な花を咲かせる梅は、儒教でも好まれ、五徳である「仁義礼智信」になぞらえられることもあり、同じく極寒の中で色褪せない松竹と合わせて歳寒の三友とも呼ばれています。

 ちなみに、多年草のユキノシタも、雪の下でたくましく生きる草花として名付けられたのだそう。

 

 黒くごつごつとした枝の上で、雪にうもれそうになりながらも凛と花開く梅の花。清らかで高貴な夫人を思わせるのは、芳しい香りのせいでしょうか。だとしても、決して清さも芳しさも誇らない姿は、いじらしいほど美しい。人知れず寒さに耐えていたからこそ、訪れるあたたかい春が嬉しいのでしょう。雪の下で、ぽっと頬を染める梅の花をみかけたら、春はそこまできています。
(20190101 第27回)

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