美しい日本のことば

愛日

2019年1月7日

 愛日(あいじつ)とは、冬の日差しのこと。中国の古書『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』にある「冬の日は愛すべし」からきた言葉です。冷たい冬をひととき忘れさせてくれるあたたかい日差しは、たしかに愛すべき日の光ですね。
 愛日の恩恵を一番いただいているのは猫でしょうか。冬空の下、日時計のように太陽を追いかけて、ぽかぽかとあたたかい陽だまりの中でまどろんでいる野良猫を見かけることがあります。
 

 冬の日差しが愛日というのに対し、夏の日差しは「畏日(いじつ)」。太陽という大きな存在を身にしみて感じる夏にふさわしい言葉です。
 夏のような力強さはないものの、冬の日差しは優しくじんわりと身にしみてゆきます。寒い中での、あたたかい日差しはそれほど長くは続きませんが、だからこそありがたい。

 

 この愛日をあらわすものが、もうひとつあります。それは、親孝行のできる日々を惜しむこと。
 若さに任せてぶつかりあった日々も、時をすぎれば、おだやかな陽だまりの中にゆれる思い出。

 あたたかい愛日を必要とするのは猫だけではありません。かぎりある日々だからこそ、愛おしく、ありがたい。いたわり合いながら過ごす時間はきっと、ぽかぽかとあたたかい愛の陽だまりになることでしょう。
(20190107 第28回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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