美しい日本のことば

雪中花

2023年1月21日

 椿、山茶花、寒桜……、色のうすい冬に鮮やかな赤やピンクの花はとても似合いますが、白い冬の白い花は、またちがった清らかな美しさがあります。白い6枚の花弁に、黄色い盃をのせた水仙。雪に覆われた土のなかで、いちはやく春のぬくもりを感じとって小さな花を咲かせるこの花は、江戸時代までは「雪中花(せっちゅうか)」と呼ばれていました。小さいながら気品ある香りを放ち、すーっと伸び上がる姿は、純白の雪にぴったり。雪の精が現れたようで、雪を「六の花」というのもわかる気がします。

 

――水仙の香やこぼれても雪の上 千代女

 

 真ん中の黄色い部分を金の盃とみて、「金盞銀台(きんせんぎんだい)」ともよばれる水仙。盃からこぼれた香りがしみこんだ雪上は、さぞいい匂いがしたことでしょう。清楚で凛とした高貴な香り。厳しい寒さを耐え忍んだあとの気高い芳香は、天上人の香りでしょうか。あともう少しの辛抱ですよ……と、純白の雪上に、芳しい黄金の光が差しています。

(230121 第122回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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