美しい日本のことば

やらずの雨

2022年5月30日

 突然の雨は、人を急かしたり、足を止めます。ちょっとした雨なら、軒下で雨宿りもいいですね。でも、長雨や激しい雨だと、そうもいきません。その場にとどまるよう、訪れた人を引き止めるかのように降ったり止んだりと降りつづける雨が「や(遣)らずの雨」です。
 雨なら仕方ないと、あきらめもつく。それらなら何か楽しいことをと、腰を据えて雨のひとときを楽しむのもいいかもしれません。でも、この人たちの楽しみ方はいかがなものかと思いますが……。

 

「人は、身分が高く生まれれば多くの人にかしずかれ、隠れることも多くなる。その結果、女も類い稀なるものとは思えるでしょうよ。でもね、中の品っていうやつがね、その人間の心の持ちようというものがそれぞれに表れて、個性的っていうんでしょうか、様々の面につけて面白いもんですよ。ま、その下っていう身分になると格別食指も動きはしませんがね」(『源氏物語』橋本治著)
 
『源氏物語』の「帚木」の章、「雨夜の品定め」とも称される場面です。
 五月雨の夜、物忌のために宿直していた光源氏のもとへ、頭中将や左馬頭、藤式部丞、遊び仲間がおとずれて、あろうことか女性からの恋文を見比べ、体験談などを交えて「上の品」「中の品」と女性の品評会をしたのです。

 今ならネット上で炎上しそうですが、女性の方がもっと辛辣かもしれませんね。なにはともあれ、品定めもほどほどに。雨に引き止められたとはいえ、水に流せないこともありますから。
(220530 第110回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

  • 作家紹介
  • 美しとき
  • 美しい日本のことば
  • メッセージ
  • お問合わせ
  • 美し人GALLERY
このページのトップへ