美しい日本のことば

翠雨

2022年5月16日

「翠雨(すいう)」とは、若葉どきに降る雨のこと。若葉雨や緑雨、青雨、青葉雨ともいい、まるで青々と萌えさかる若葉の熱をさますかのような雨の言葉です。

 呼び名ひとつで、まぶたの裏につややかに濡れた青葉がうかびませんか。

 雨の匂いにまぶたをひらけば、そこにも目に染みるような緑が滴っている。滴っているのは雨なのか、それとも緑なのか。

 新緑のころの、美しい雨の景色です。
 

―― ときはなる 松井の水を 結ぶ手の しずくごとにぞ 千代は見えける(『新古今和歌集』より)
(常磐の緑にのこる松井の水を掬う手からしたたり落ちるしずく、その一滴一滴にわが君の千代が見える)
 
 常緑樹は、ちょうど若葉どきに古い葉を落して新しい葉に生まれ変わることから、この枯れ葉を「ときわぎ落ち葉」と呼ぶそうです。
「いのち永らえ」とばかりに古い葉を落として土に還り、新しい生命を育み養おうとする夏落ち葉。

 青葉からてきてきとおちる翠雨のしずくや、常盤木がおとす枯葉の音に耳をかたむけてみてください。くりかえす死と再生の美しい生命のメロディーがきこえてきます。
(220516 第109回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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