美しい日本のことば

朧月夜

2020年3月27日

「おぼおぼ」という擬態語から派生したと言われる「朧(おぼろ)」。ぼんやりと、はっきりしない様子を表しています。

 ぼうっと霞みがかった月が浮かぶ「朧月夜(おぼろづくよ)」は、晴ればれとした月夜とはちがい、幻想的で、夢のなかを彷徨っているような気分になりませんか。

 物理学者の佐治晴夫さんによると、月と地球はもともとひとつだったとか。はるか昔、地球ができて間もないころに巨大な惑星が衝突し、飛び散ったカケラが地球に引き寄せられるように周囲をぐるぐる廻ってできたのが月なのだそうです。

 だからでしょうか。古より人は月に惹かれます。憧れと畏怖の念をもって月を眺め、その不思議な力を感じるのです。

 

―― 照もせず曇りもはてぬ春の夜の 朧月夜にしくものぞなき(大江千里)

 

「照でもなく曇るでもない、おぼろにかすむ春の朧月夜にまさるものはない」と歌った大江千里。麗しい春夜の情景が目に浮かびます。夜空を見上げてこんな歌をくちずさむ女性がいたら、光源氏でなくても心奪われそうですね。

 月の出入りを表す朧。姿を消したり現れたりと、人の心を惹きつけてやみません。

 おぼろにかすむ春の夜は、もしかすると離れ離れになった月と地球の静かな逢瀬なのでは、と、ぼんやりそんなことを考えてしまいます。

(200327 第69回 絵:土佐光起「源氏物語 花宴」)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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