美しい日本のことば

鼓星

2018年12月16日

 冬の空を見上げると、目につくのがこの鼓星(つづみぼし)。そう、オリオン座です。一見、蝶のようにも見えるこの星は冬空の王者とも呼ばれ、澄みわたる冷たい冬の空に君臨します。

 

 鼓は、鼓胴に張り巡らされた紐を締めたり緩めたりすることで音色を調整することから、この紐のことを「調べ」と言うのだそうです。

 握りを調整する場所は、ちょうど3つにならんだ星のあたり。ここは、ギリシャ神話に由来するオリオンの胴回りにあたります。そのまわりを囲む4つの星は、オリオンの手足の一部。上部にある赤い星がペテルギウスで、その対極にある青白い星をリゲルといい、それぞれの色から見立て、源氏星と平家星とも呼ばれています。
 だとすると、3つの星は、さしずめ富士川というところでしょうか。1180年の源氏と平氏の戦い、「富士川の合戦」が思い出されます。
 

 オリオンは、力を誇示したことで神の怒りに触れ、サソリに刺されて死にました。源氏と平氏の終焉も、悲しいものとなりました。
 昔から、はかなく散りゆく命は夜空にかがやく星になると言います。どんな命も尊いもの。耳をすませば、ポーン、ポーンと、悲しくも美しい命の調べが聞こえてくるかもしれませんね。
(20181216 第24回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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