美しい日本のことば

八入の雨

2018年10月5日

 布を染めるとき、染料に一度だけ浸すことを一入(ひとしお)といい、幾度も浸すことを八入(やしお)といいます。「八」は「多い」を、「入」は染料に浸すことを意味するのだとか。

 平安時代、深みある真っ赤な紅花色は貴族たちの憧れの色だったそうです。

 その憧れは、

 

 紅(くれない)の八塩(入)に染めておこせたる 衣の裾も通りて濡れぬ

 

 と、万葉集にも歌われるほど。

 

 一雨ごとに、樹々たちを色濃く染め上げる秋の雨を、古の人たちは八入の雨と呼びました。

 炎天下で生命の滾りを見せつけていた樹々たちも、今は静かに色を落としはじめています。いいえ、色雨に染め上げられているのでしょう。

 ただ、今年は八入の雨が過ぎるようです。まるで、猛暑で熱しすぎた緑を急いで冷ましているかのよう。これ以上、被害が出ないことをお祈りします。

 

 深まりゆく秋は、落ち着きのある芳醇な色香漂う大人の季節。

 鮮やかで艶めく美しい秋が訪れますように・・・。

(20181005 第3回)

著者:神谷真理子

兵庫県姫路市出身。もの書き。
Chinomaサイトの「ちからのある言葉」、雑誌『Japanist』取材記事、保育園幼稚園関連の絵本など執筆。詩集『たったひとつが美しい』(神楽サロン出版)

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